主な研究テーマ

素粒子の基本理論全般にわたって幅広い興味を持って研究しているが、現在特に力をいれているテーマは、自然界の統一理論の最有力候補である超弦理論、量子重力理論、及びそれに密接に関係したいわゆるAdS/CFTの研究である。

ヒッグズ粒子の実験的観測により、素粒子の「標準模型」は、10^(-17)cmまでの法則を記述する優れた有効理論として確立したと言えるが、標準模型では説明が付かない重要な現象も幾つか存在するは周知の事実である。
その中でも、標準模型が重力という最も古くから知られている非常に重要な力に対して、何も示唆を与えていないことは、重大な欠陥であり、特に量子力学的な効果が顕著になる、プランクスケールでの量子的重力理論の理解は21世紀の最重要課題であると言えるだろう。
これに対しては、非常に自然な形で重力を含む超弦理論が有力な候補であるが、超弦理論で計算できるのは今のところ、重力子を含む粒子間の平坦な時空中での散乱振幅、及びDブレーンで記述される特殊なブラックホールの統計力学的エントロピー、等わずかな情報であり、「量子重力理論」に対してどのようなイメージを描けば良いか良くわからないのが現状である。
これに対して、1997年に提唱された「AdS/CFT」対応は、全く異なる見地から、量子重力の本質を捉えることができる可能性を秘めている。この対応は、反ドジッター(Anti de-Sitter)時空と呼ばれる高い対称性を持った曲がった時空中の閉じた弦の理論と、(それより一次元低い次元を持つ)その時空の境界上で定義される共形不変理論(CFT)が等価であるという驚くべき仮説であるが、その本質は未だに明確に捉えられていない。この対応はちょうどCFTと同じ対称性を時空の計量の対称性として持つ、特殊な時空に関するものであるが、この等価性を理解することは、より一般な時空に対する量子重力、特に摂動論では議論出来ない量子ブラックホールの理解、を得るための大きなヒントになるものであり、非常に重要である。
また、AdSに限らない時空中でのブラックホールの量子的な性質の研究も、超弦理論、及びそれが内包するDブレーンに対する新たな見方を見いだす上で重要であると思われる。とにかく、従来とは違った量子重力に対する新しい見方を発見することが不可欠な段階に来ているように思えるので、そのヒントとなる事柄を中心に研究していきたい。

現在追求している具体的なトピックとしては

等がある。